アニメのお仕事 演出助手って何するの?
これまで総監督・監督・助監督を説明してきたが、今回は演出助手である。
略して「演助(えんじょ)」と言う。
仕事のポジションとしては演出への登竜門。
演出への登竜門ということは監督への道の入り口なのだ。
具体的な仕事内容は多岐にわたるが基本的には雑用・使いっ走りである。
ここで早い者で半年、遅くても3年くらいで演出として巣立ってゆく。
昭和の自分の時代は撮出しの手伝いやリテーク処理をやったりとなかなか忙しかったな。
※撮出し 撮影前の素材チェックのこと。
※リテーク処理 撮影された映像に間違いがあった場合、正しく撮影されるように素材を直し、チェックすること。
自分が演助のころは合作と言って、アメリカのアニメを日本で作っていた。
セリフが英語でな、これが大変だった。
日本では3枚口パクと言って閉じ口・中口・開き口の三枚で大抵のセリフをさせている(例外はある)。
ところがアメリカ人は口パクに関しては細かくて、閉じ口の他に母音や子音に合わせた口の形が多く、これをアフレコしたセリフ通りに当てはめなければならなかったのだ。
口パクの形は最低でも7とか8くらいあったような気がする。
ああ大変だ。
編集さんが声を聞き、口の形の指示をシートに入れる。
演助はそのシートを各カットの尺に合わせて切貼らなければならない。
これがとにかく面倒くさい。
一日中作業しておおよそ3日はかかる。
しかも切り貼りがずれると口の形の位置がセリフと合わなくなり、リテークが増えるという、もう二度と経験したくない作業をやらなければならなかったのである。
今はない作業だろうが、現代は別な面倒くさい作業が演助に与えられているのだろう。
きっとそうに違いない。
演助とはそういうものだ。
演出の相手をするのも大変だ。
傍から見ていると演出の中にはええかげんな方もいらっしゃるので、そういう場合は演助が尻を拭くことになる。
社内ではそういう演出はいなかったが社外にはタマにそういう人がいた。
ともあれ演助は一日でも早く演出になって、担当した話数でやりたいことをやってみたいと夢見ているポジションなのだ。
ところで優秀な演助が優秀な演出になるのかと言うと、全くそんなことはないのが面白い。
人には向き不向きというのがあるのだな。
かく言う私は優秀な演助であった。
3年ほどの撮影経験があったので一緒に仕事をした演出さんより遥かに撮影についての知識があった。
また業界経験もそれだけあったので同期の中では一番最初に演出に抜擢された。
そして挫折したのだ。
【つづく】