北朝鮮渡航記 第3話 平壌では175cmで大巨人
さて翌朝の朝食はスクランブルエッグにおかゆと牛乳という朝食らしい朝食。
確か海苔もついていたっけ。
量は朝食として普通なのだが、私にとっては少ないのでどうしても腹が減る。
せっかく平壌まで来たのだから、この先はなんとか北朝鮮料理を食べたいものだ。
朝のミーティングでスタジオ視察が翌日に延期になったとのこと。
なんてこったい。
腹ごなしにその辺を散歩してみようということになり、日本人だけでホテルの外に出かけた。
Mさんにはどこに行ってもどこで写真を撮ってもいいと言われたが、写真はともかく遠くまで出かけるつもりはなかった。
だってなんだか怖いんだもの。誰かに尾行されているみたいで。
考え過ぎか?
怖いといえば、前日、Mさんがパスポートを預からせてほしいというので全員が渡してしまっていた。
だからこの日は全員パスポートを持たずに出かけていたのだ。大丈夫だろうかパスポート。
ホテルの外には大型バイクが一台停まっていた。
このバイクはこの後も連日同じ場所に停車していたのだが、運転しているところを最終日まで誰も見たことがなかった。
下の画像は前回紹介した我々が宿泊したホテルだが、画面下右をご覧いただきたい。
よくよく見ると、なんとこの画像にもバイクが停まっている。
我々の考察では、我が国でもこのくらいのバイクがあるもんね、というところを外国人に見せるために置いてある展示品なのではないか、ということで意見の一致を見た。
エネルギー節約のために夜に部屋の明かりを消す国だもの、そのくらいのことはやりかねんと思った。
想像してみてください。バイク係の役人がホテル前に毎日バイクを持ってきて、夜になったら持って帰るという姿を。
うーむ。すごいのか、暇なのかよくわからん。他にすることがないのだろうか。
さて、ホテル前の散策だが、どうも街の様子が変だ。何が変なのか考えながら歩いていたら気がついた。
まず、私らより背の高い人に出会わない。
党利を歩く人々はみな小さい。
私は175㎝あり、仲間もだいたいそのぐらいだ。
日本に戻ってからこの国関係の本を読んでいたら、平壌からの脱北者で172㎝の方が、元の生活区域で十何番目かの長身だったという内容があった。
だから私らは巨人とはいかないまでも、ここでは充分に長身だ。
頭ひとつ抜けてる感じだ。何だか不思議な気分である。
プロレスラーが街を歩くとこんな感じかもしれない。
それから見かけなかったのは、太った人と眼鏡をかけた人、それから髭の人。
私は眼鏡で髭なので歩行者の中で目立ってしょうがない。
親子連れとすれ違った時に目を丸くした子供に指さされました。おいおい外国人が珍しいか。珍しいよな。
そして変なのが車がほとんど通りかからないということ。
お盆の都内の早朝より交通量が少ない。首都だろここは。
下の画像はWikipediaから抜いてきた平壌市街地の画像だが、こんな感じで車の通りはほとんどなかった。
散歩もそこそこにホテルに戻ったら、Mさんたち在日の方々が金日成像に参拝しに行くとのこと。
何でも在日の方が北に入国した場合、必ず参拝しなければならないらしい。
建国の英雄なので敬意を表さなければならないのだ。
そういえば前日在日の方に、金日成と金正日だけは人前で呼び捨てにしないでくれ、もし名前を口に出す場合は必ず将軍とかなんだとか敬称をつけてくれと念を押されたっけ。
私らはめんどうなので滞在中は指示代名詞で押し通しましたが。
よろしかったら一緒にどうぞと言われたので、もちろん行きました。我々外国人は参拝をしなくてよいそうだ。
さて、例の銅像は小高い丘の上にあった。
あとで調べたら万寿台(まんじゅだい、マンスデ、朝: 만수대)という場所のこと。
この丘はのちに銅像のモデルが亡くなった時、参列者の人々が果てしなく続く映像や写真をご覧になった方がおられると思うが、あれは写真に写っている所までしか平地部分がありません。
写真に写っている参列者たちの最後尾のすぐ外側、フレームのすぐ外側が階段になっている。だから想像しているよりは広くないです。そこそこの広さって感じ。
銅像の左側には大記念塔というのが設置されていた。
片手を挙げた例の銅像はまあまあの大きさだった。元々は金箔を貼っていたらしいが、中国からの「派手すぎて品がない」という忠告で、はがしてしまったらしい。
だから銅色。手垢のついていない十円玉のような色でした。
で、Mさんたちの参拝が終わったあとで銅像の前で撮影しようということになった。
先輩のSさんに、「オレを撮ってくれ」、とカメラを渡されたので、どの辺から撮影しようかなと迷っていたら、
「早く! 早く!」と声がする。
慌ててファインダーのぞき込んだらSさんが銅像と同じポーズを作って立っているではないか。
あのー、建国の英雄の前でそれはまずいんじゃあ。戦前の日本なら天皇陛下みたいな存在だろう。いや、この国ではそれ以上かもしれない。
躊躇していたら、
「いいから早く! ほら!」
はい、先輩には逆らえません。再びファインダーをのぞき込んだら、銅像の奥の方にカービン銃を持った警備の兵隊さんが何人か立っているじゃないの。
まさかいきなり撃っては来ないだろうけどびびったぜ。
さっさと撮影したあとで、皆で集合写真を撮りました。
本日の行事はこれで終わり。となると楽しみは飯だ。北朝鮮料理が待ってるぜ、と期待していたら、案内されたのはホテル近くの日本食の店。
といっても高級和食ではなくて駅前の定食屋みたいな所。
うどんを食べたのだが、味と量はごく普通。
何でも日本から出店している店で料理人もそこから派遣されているらしい。
昼食はこんなんだったので、いやでも夕食に期待がかかる。
で、夕食は皿に薄く盛られたご飯とプルゴギ、キムチにスープという前日と全く同じメニュー。
北朝鮮料理はどうなっとるのじゃあ!
まさか翌朝の朝食も?
何だか嫌な予感がする……。
つづく