天才を目の前で見た凡人の話
巷では将棋棋士の藤井聡太君の話題で持ちきりである。
そりゃあそうだ。2020年の第91期棋聖戦で史上最年少となる17歳11カ月でタイトルを獲得したのだから、あたりまえだな。
本人は嫌がるかもしれないが天才と言ってよいだろう。
さて本題だが自分が存在する分野に突如として若き天才が出現した場合、凡人はどういう反応を示すのか。
自分は高校時代に陸上競技の長距離走を始めた。
元々走るのが好きだったし、中学のマラソン大会で学年五位になり高校で本格的にやってみようと思ったのだ。
半年ほど練習を続けて自己記録を伸ばし、秋のある大会に参加した時のことである。
その大会は年齢制限なしで高校生から大人まで自由に参加できる大会だった。当然高校生だけの大会と比べるとレベルは高い。
自分は1500m走に参加して予選で落ちたがそれほどショックは感じなかった。
大学生や大人に勝てるわけないと思っていたからだ。しかし、この後で人生最大の衝撃が待っていた。
この大会で優勝したのは自分の一学年下の中学生だったのだ。
彼は大学生や自衛隊員などを相手にしてラストスパートでぶっちぎってゴールへ飛び込んで行った。
この中学生を観た時に初めて「天才」というものを実感した。
もう体つきからして別人種なのではないかと思うくらい違う。
神から与えられた天賦の才能。
自分がどうあがいても届きそうにない存在。それを自分は始めて目の前で見たのだ。
自分が陸上競技に命をかけていれば少しはあがいたかもしれないが、命をかけるつもりは全くなかった。
後で調べると天才君は中学の800mで全国2位だったことが分かり、更なるショックを受けた。
アレよりも上がまだいるのか……。
才能のあまりの高さに、もう呆然とするしかなかったね。
それからは気分を変え、天才を意識の外に追い出した。
全国がどうとか全く思わなくなり、ひたすら自己記録の更新が目標となったのである。