少しでも自分の夢に近い職を選べ
20歳の頃、北海道旭川市の短大を卒業しアルバイトをしていた私は職を探すために札幌の職業安定所に向かった。
アニメ業界に対するぼんやりとした憧れがあったが、夢だけでは生きてゆけないと思ったからだ。
札幌の職安の窓口で、「職を探しているんですが」と尋ねると係員が、
「あそこの壁に求人票が貼ってあるので、どれでもいいので興味のあるやつを剥がしてここに持ってきてください」
と言う。
壁を見ると太めの短冊型の求人票がずらりと貼られていた。
短冊には社名や求人要項が描かれていた。
大量の短冊の中から適当に一枚を選び出し、とりあえずまずはこの会社の説明を聞こうと係の所へ持っていった。
係の人は短冊を見るなり、
「ああ、ここはいい会社だよ。ちょっと待ってね、この会社の担当に連絡するから」
と言いながらいきなり電話をかけ始めた。
私は内心ちょっと待ってくれよと焦った。
この会社の説明はないのかよ。
あれよあれよと言う間に、即日この会社で面接をすることになってしまった。
心の準備ができないまま、路面電車を使ってこの会社を訪れ社長と面接した。
私は流されたまま応対し、話はとんとん拍子に進み、この会社に就職することに決まった。
あまりのテンポの速さに私がぼーっとしていると社長がにこやかに話しかけてくれた。
「君は若いのだから夢があるだろう。もしあるなら少しでも自分の望む職種に近い所に就職しなさい」
帰りの特急列車の中で窓の外を流れる夜景を見ながらさっきの言葉を反芻してみた。
「君は若いのだから夢があるだろう。もしあるなら少しでも自分の望む職種に近い所に就職しなさい」
自分の夢とはなんだ?
近い所とはどこだ?
私は一晩悩んで、翌日会社に断りの電話を入れた。
その後、紆余曲折あって専門学校に通い、更に迷いながらも近い所を探して現在に至ったのだった。
今でもあの社長には感謝している。
ありがとうございました。