平成アニメ話 何かを始めるのに遅いということはない
何かを始めるのに遅いということはないと思う。
自分も業界を目指して専門学校に入ったのは21歳の時だった。
平成になって間もない頃だったと思う。
ある日のこと会社の人事を担当している制作デスクがスケッチブックを持って私のところにやってきた。
「ねえ、これ、どう思う」
スケッチブックを開いてみると色々なものが描かれている。
公園で遊ぶ子どもたち。
犬の何気ない仕草。
様々な人々の様子。
私は絵の専門家ではないが、どれも達者で生き生きとして見えた。
なにより画力は水準以上だ。
さらに言うと、アニメや漫画の模写ではない点に好感が持てた。
「これ、どうしたの?」
「実は動画の入社希望者なんだ」
「いいじゃない。入れてあげなよ」
「それが……」
制作デスクは言いにくそうに眉を歪めた。
「この人30歳なんだよね」
その言葉を聞いた瞬間、「アホか」と思った。
平均的30歳の動画・原画マンでこれ以上の画力の者はそうはいない。
仮にも絵を商売にして食べている現場の者が、このスケッチブックを観て画力に感心せず、年齢を問題にするなんてありえないと思った。
「30歳で動画からってしんどくないかな?」
制作はそうも言っていたが、業界に入りたいという意思を持っているのはスケッチブックの主であり、その後の苦労は覚悟の上だろう。
入れてダメなら元々ではないか。
私は彼を強く推し、会社はスケッチブックの主を入社させた。
スケッチブックの主は動画で頭角を現し、程なく原画になり、やがて短編アニメ映画の監督になった。
かように現場では年齢を問題にする場合がある。
これはアニメに限らずどの現場も一緒だろう。
ただし、早めに始めるのは仕事を覚えるのに良いだろうが、質を上げてゆくのはかなりの部分才能が必要だと思う。
だから年齢はモノづくりの本質とは何の関係も無いと思う。
年齢が理由で踏み出すのを躊躇している人がいたら、覚悟を決めて前進するのも手だ。
そこにはいい出会いがあるかもしれない。