昭和アニメ話 ブラシについて
セル時代のアニメでガラスやメカの質感を出すために使用されていたのがブラシだ。
下の画像のようなスプレーガンで細かい霧のような絵の具をセルに吹き付けてゆくのである。
現在はプラモデルの塗装に使っているのがそれに近いと思う。
セル時代にはブラシを専門に行う特効さんが職業として成立していたのである。

私が初めてブラシを見たのは撮影の新人として助手を努めた時のことである。
それはセルに描かれた窓ガラスの質感を見事に表したブラシであった。
女性の先輩が得意げに教えてくれた。
「それがブラシって言うのよ」
「へえー、これがブラシですかー」
の「ですかー」でブラシの上を指で撫でたら、見事にその部分のブラシが消えたのである。
「うわっ!」
「ダメよ、触っちゃ」
ブラシは繊細でちょっとしたことでかすれてしまうのだそうだ。
先に言ってくれよと心のなかで思ったが後の祭りだ。
「どっ、どっ、どうしましょう?!」
「しょうがないわねー。じゃあ、それ全部消しちゃって」
いいのかよ。
というわけで私は指示されるがまま窓のブラシを消し、先輩はそのセルで撮影した。
そのカットはリテークにはならなかったが、しばらくドキドキしながら過ごしたものである。
ちなみに自分が先輩になってからは後輩に「まず、絶対に触るな」と言ってからブラシの説明を行ったさ。