生涯一本だけ打ったホームランについて
20代の頃はアニメリーグという草野球に参加していた。
野球の実力はというと、5段階評価で甘めに自己採点すると
走塁 3
打撃 2
守備 1
といったところか。
少年時代に全く野球の経験がなく近眼のうえに乱視なのでフライの目測がとれない。
反射神経が鈍いのでゴロに反応できず、闘争本能が希薄なのでボールに飛びつく気力も気合もない。
打撃も守備ができない理由と似たり寄ったりだ。
かろうじて脚は元陸上部なので遅くなかったが、せいぜい平均レベルで突出して速いわけではない。
陸上部のくせになぜ平均なのか? とは陸上の素人さんによくされる質問だが、それは私が長距離ランナーだったからである。
短距離・跳躍・投てきの選手は瞬発力の高さが勝負だが、長距離は持久力の高さが求められるのだ。
種目によって使う筋肉の質が違うのだ。
ちなみに野球の試合中に持久力を求められるのは完投するピッチャーくらいで、他の選手はまず求められない。
つまり私は野球に不必要な「持久力」だけが平均以上でその他の運動能力ははっきり言って「下」なのである。
そんな私がなぜ草野球をやっていたのかというと「人付き合い」と「人数合わせ」のためである。
付き合いは大切だし、野球は9人いないと負けになってしまうからね。
集まる人数が少ないと試合に出れてそりゃあ楽しいものさ。
ところが人数が集まると自分の実力では全く試合に出られない。
朝早く起きたり徹夜で試合に出かけてもベンチを温めるだけなのだ。
しかも少ないギャラから部費までふんだくられるという、ブラック企業ならぬ暗黒部活になってしまうのだ。
野球がへたなばっかりに、いったい俺は何のために生まれてきたのだろうと哲学者めいた自問自答を繰り返すことになる。
あ、愚痴ばかりになってしまったな。
前向きな話に戻そう。
こんな私でも一度だけだがホームランを打ったことがある。
ただしスタンドインではなくランニングホームランだが。
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真ん中やや外目の緩い速球にバットを振ったところ、ボールをとらえたのにもかかわらずほとんど手ごたえを感じなかった。
一瞬空振りしたかと思うくらいの手ごたえのなさだったが、ボールは自分の打球とは思えないくらい高く舞い上がっている。
外野に目をやると前進してきたレフトが慌てて後退するのが見えた。
お、これ、三塁打行けるんじゃねえの?
と、慌てて走り出す。
ところが素人の悲しさでベースランニングの練習なんかしたことがないので、ベースを回るときに大きく膨らんでしまうのだ。
二塁を蹴って三塁に向かった時、コーチャーが回れ回れと手をぐるぐると回している。
三塁を蹴ってホームに向かうときに加速がつきすぎて三塁ベンチに飛び込むかと思うぐらい大きく曲がって駆け抜けて、ホームベースを踏んだのである。
これが生涯唯一のホームランである。
いい体験をさせてもらった。
落合博満バッティングの理屈 三冠王が考え抜いた「野球の基本」 [ 落合博満 ]
ホームランを打った時の感触は今でもありありと思いだせる。
とにかく手ごたえがなかった。
感覚としては煉瓦だと思っていたら豆腐だったくらいの手ごたえだ。
おそらく生涯初めてバットのスイートスポットでボールを捕らえたのだろう。
まさかこれが生涯唯一だとはこの時には思っていなかったが。