1964東京オリンピック 幻の聖火ランナーを見た日
ギリシャで採火された聖火は、聖火空輸用の特別機「シティ・オブ・トウキョウ号」でアテネを出発。中東からアジアにかけての12都市を経て、当時アメリカの統治下にあった沖縄に到着した。
そして国内4ルートをリレーし、ついに10月10日、国立競技場の聖火台に点火されたのだった。
私はその聖火リレーを地元・北海道の旭川市で観た。
当時小学校一年生の私が学校から家に戻ると、母親が聖火を観に行くから一緒に行こうとはしゃいで言った。
当時の私には聖火が何なのか分からなかったが、とりあえずついて行くことにした。
家からほど近い国道40号線の歩道で待機していると、続々と見物人が集まってきた。
子供心にこれは何かすごいことが起きるのだろうとワクワクしながら待った。
しかしいつまでたっても聖火は来ない。
小一時間は待ったかもしれない。子供の一時間は無限の長さである。
待ちきれず、「もう帰ろうよー」とシビレを切らせた頃に沿道の群衆から声が上がった。
「来た!」
その声に私は大人の脚の間をかき分けて前へと出た。
稚内方向からパトカーや白バイがこちらに向かってくるのが見え、私の胸は高鳴った。あの後ろに聖火があるに違いない。
想像の中で一度も観たことのない聖火のイメージが膨らんでゆく。
目の前をパトカーが、そして白バイが通過し、その後ろから白いランニングシャツ姿のお兄さんが先端から白い煙の出る棒を持ち、自分の目の前を駆け抜けていった。
私はお兄さんの後続の方向に注目した。
なぜなら聖火を観るためだ。
しかしいつまでたっても聖火は現れなかった。
後でお袋から、先端から白い煙の出る棒が聖火だと聞かされた時、「詐欺だ」と思った。
「火」ではなく「煙」じゃないか。
当時の様子を伝える映像。
さて、問題はこの後である。
あの時の聖火はどんなルートを走っていたのかな? とネットで資料を探していたらこんなのを見つけた。
下の資料は聖火リレーのコース図である。
この図によると北海道は千歳から始まって札幌を経由し、函館へと向かっている。
北海道の中央部にある旭川に来た形跡はない。
では、私の見た聖火は何だったのだ?
言っておくが幻でも夢でもない。
私は確かに見たのだ。
※ お袋にも確認したが彼女も聖火を見たと言っている。